映画『そして父になる』はある日突然、育ててきた息子が病院で取り違えられ別の子どもだったと知らされる二つの家族の物語です。
この作品は、タイトルの『そして父になる』の通り男親を中心に展開していきますが、観る人それぞれが自分の視点で楽しめると思います。
昔から、落語や講談では「産みの親より育ての親」を題材にした話はたくさんありますが、母親中心で父と息子の話は興味深いです。
さらに親子関係の物語は子どもからの視点で、ステレオタイプになりがちですが是枝監督は丁寧に子ども視点も配慮されています。
私も父親とやらせてもらっているので、各シーン考えさせられ、若い頃に子育てを手伝っている時のことを思い出させてくれます。
是枝監督は、登場人物の心情を表すのにセリフだけに頼らないので、観る人それぞれより共感できる作品です。
後半、感想と是枝監督についてもまとめてあります。
よろしかったら覗いて見てください。
映画『そして父になる』あらすじ
公開 2013年 日本
監督 是枝裕和
主演 福山雅治
主人公野々宮良多(福山雅治)は、仕事で成功を収め住宅や車なども一流、息子もお受験で私立に入学させる、絵にかいたようなエリートです。
救いは、母親がお隣の国のスカイキャッスルのようでないのが良かった。
仕事で家族との時間は密ではないが経済的には問題なく過ごしています。
子育ては妻みどり(尾野真千子)にまかせっきりなのに、息子慶多の成長過程には満足していない。
この夫の態度では、今のカップルだといつ離婚されるかひやひやですよ。
テーマが広がってしまいすから置いといて先に進みます。
ある日突然、病院の取り違いで6年間育ててきた慶多が斎木家の実子、琉晴が野々宮家の実子であることが判明し、二つの家族は複雑な関係に置かれます。
二つの家族の対比は、親子関係の濃密さだけでなく生活レベルの違いも出しているので、私のような貧乏根性があると迷う要素が増えてしまう。
両母親の子どもに対する思いはそれほど変わりないですが、父親の子どもに対する考え方は異なります。
野々宮家は、父と母の役割分担をしている。斎木家は母親の思いを父親も尊重している。
どちらが良いという表現はないですが、画面上で見ると対照的です。
外面的条件が描かれて、ここからが二つの家族、特に互いの父親の家族との関わり方の違いから答えのない問いに向きあっていきます。
ネタバレにならない程度で紹介できる話の流れは、家族の中で幸せをつかんでいくには一人だけでは上手く行かない。
主人公良多を好感度が高い福山雅治が演じているので、後半の父親の変化がとても自然に感じられます。
映画『そして父になる』感想
『そして父になる』のシーンで私が特に印象に残ったのは、良多が斎木家に琉晴を迎えに来た時の慶多が押し入れに隠れる所です。
実際に私も似たような光景を見たことがあるからです。
妻が里帰り出産で第一子を連れて実家に世話になっているときのことで、半月ほど妻と子と離れていて、妻の実家を訪れたとき、息子が私を見るなり押し入れに隠れてしまいしばらく出てこなかったことを思い出しました。
息子も時間をかけて少しずつ試すように近づいてきてもとに戻りましたが、その時のわたしの情けなかったこと。
当時2歳で、その時のことを息子自身も覚えていないようですが、私自身はとても狼狽したことだけは覚えています。
私の勝手な思い込みでは、久しぶりに会うので喜んで出てくると想像してましたが、完全に無視されたような、何しに来たという感じでした。
この情けない感じを説明してくれたのは、斎木雄大(リリーフランキー)のセリフ「一緒にいる時間が大事」がシンブルに刺さりました。
半月離れてこれですから、実子でも父、息子の関係はもろいものなのに『そして父になる』は実子でないのですから父の迷いはより深いと思います。
男親と子との関係は、母親と子の関係に比べたらフィクションに近い。
さらに父親が成功して金持ってたりしたら教育に期待しすぎて、また現実離れする。
この映画を観て激しく気がついたのですが、男親が父になるには、子どもとの関係以前にパートナーである母親に認めてもらわなければならないことです。
この前提をクリアしていないと、父子の関係だけうまくいっても家族は壊れてしまう。
場面は違いますが、良多とみどりが口論しているシーンで慶多の不安そうな表情を見ると心が痛みます。
この作品を観て、子どもが小さい頃にこんなに家族について考えていなかったと反省し、何とか大きなトラブルもなく過ごせたのは、妻と子どものおかげと気付かせてくれた映画です。
是枝監督のメッセージとは
是枝監督の他の作品で、とても気に入っている映画『歩いても歩いても』があり、主人公の名前が良多と同じなので親近感を持てます。
『歩いて歩いても』の良多はダメ亭主の設定ですが、妙に共感できてしまったことをおぼえています。
『そして父になる』も『歩いても歩いても』は物語のテーマを作品の中に細かく散りばめています。
というか、あぶり絵のように観る人の頭の中にレモンやミカン果汁、砂糖水で絵を描かれたような感じです。
監督の作品を観ていると、何かの拍子で絵が浮かび上がってくるそんな映画だと思います。
日常感情が動いたときは、すぐに言葉にできないので、感覚を覚えています。
例えば、息が苦しくなったり、お腹がおもくなったり、肩が重くなったり、もよおしていないのにトイレに行きたくなったりなど。
後、映像で覚えているだけというのもあります。
言葉には反応しませんが、似たような映像を見るとありありと当時を思い出すことがあります。
是枝監督の映像は昔の記憶をあぶりだしてくれるシーンが多いので、その頃の体の反応まで思い出させてくれます。
作品では映像と音ですが、その場の空気の暑さ、寒さ、匂い、肌の感覚を呼び起こしてくれます。
懐かしいという、よそよそしい感じでなくまさにその場面の中にいるそんな作品です。
是枝監督のメッセージは、臨場感の中で観る人が考えてくださいという問いで、それは空気について説明せよ、と言われているようで難しです。
でも、空気は目に見えなくてもなくてはならない大事なもの、それに気づいてほしいというのがメッセージなのかも知れない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
